クロアチア

「魔女の宅急便」の街を目指して!!

クロアチア0-1

クロアチア0-1

25歳 はじめての海外ひとり旅の地は、アドリア海に浮かぶ国、クロアチア。
太陽とオレンジ色の屋根と青い空、碧い海。
by hvar-kirara


はじめに

2011年7月、
旅行会社に行き、クロアチアまでの往復チケットを買った。

クロアチアとの出会いはその2年前にさかのぼる。
知人の旅話を聞いて興味を持ち、
本屋で見つけた綺麗なクロアチアの写真集を手に取って
パラパラとめくってみた。
そこに載るアドリア海、海の幸、街並み、子猫

いつか絶対行くんだろうな、わたし・・・

と、少し離れたところで確信していた。

ついに先日そのタイミングが巡ってきたわけだ。

滞在中わたしは、
経験したこと・感じたこと・口にしたもの・交通のこと・言葉のこと・・・
すべてを一冊の日記帳に書きとめていた。

その中のほんの一部をここに記した。

9日間、まさに

「生きるために」生きた。


第一章 あの国へ

成田空港を出発し、パリCDG空港を経由してザグレブ国際空港に到着した。
クロアチアへは直行便はない。

日本との時差は8時間。

まず、
どうしてクロアチアだったのか。

理由はいくつかある。

本屋で手に取った一冊の本の中にたゆたう碧い海、街がかもし出す穏やかな空気感
その土地の匂いを味わいたかった。
そしてもう一つわたしにとって重要だったのは
日本人にはまだあまり馴染みのないマイナーな国であったこと。
斬新で前衛的であればあるほど血が騒ぐ。
でも要は例に漏れず
20代特有の自分探しのなんとやら、だったのかもしれない。

クロアチアにはいくつかの世界遺産が点在しているため、
ひとつの都市にずっと滞在せず、長距離バスや船を駆使しながら旅をする方法をとるのが一般的である。

今回わたしが決めたルールは3つ。

・ツアーには参加せず、すべて自分でプランニングすること。
・高級ホテルには泊まらず、クロアチアではポピュラーな、SOBEやアパルトマン(貸し部屋)に泊まること。
・本の中でわたしを虜にさせた、フヴァル島に行くこと。

旅は9日間。

計4都市を旅することにした。

クロアチア1-1.jpg

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最初に降りたった首都 ザグレブからまずはスプリットに向かう。

列車はあるが主に貨物用のため、移動手段は専らバスが主流。

朝6時半、
ザグレブ中央駅に向かい、トラムに乗りバスターミナルへ。
話されている言語はクロアチア語の他、英語やドイツ語が通じる。が、
わたしは、Only Japanese・・・

拙過ぎる英語で必死に旅をすることになることは予想範囲だが、これがなかなか悩ましい。

やはり女性はキツい。のはどこの国でも一緒なのか。
バスターミナルから中央駅への行き方が分からず
わたしが最初にエクスキューズした女性は、言葉も通じない日本からの小娘に苛立った。
呆気なく匙を投げられた。

次は、中年の男性に地図を見せながら必死に道を聞く。
初めは壁があったもののだんだんと打ち解けて、
「僕と途中まで一緒だから安心して」と言ってくれた。
別れ際、亀田のあられをあげた。
お世話になること前提で、お礼にと日本から持参した秘密兵器のうちのひとつだ。

そして無事に中央駅に着き、発車まで時間があったので
ベーカリーでチェリーパイとハムチーズパンを買った。

古代ローマ帝国が造った1700年前の遺跡と、
世界遺産ディオクレティアヌス宮殿の待つ都市、スプリットまで6時間のバスの旅。

道中、パンをかじりながら 強い孤独を感じた。

内戦の傷跡が残る街並みを眺め、

うとうと・・・


第二章 ザグレブからスプリットへ

喫煙率95%・平均身長180センチ(私的見解) 小顔でスタイルの良い若者が闊歩する港町
スプリットに到着したのは、13時すぎ。

中世の街並みを残す旧市街と、時代と共に変化している一帯が両方感じられる不思議な雰囲気であった。

クロアチア2-1

クロアチア2-1

まず、予約してあったアパルトマンを探す。
アパルトマンというのはこの国ではごくありふれた宿泊施設である。
家の持ち主が、使わないフロアや部屋を改造して
キッチン・バストイレ・リビングなどを完備し、旅行客に貸している。

アパルトマン探しは
異国の地で、ピンポイントに一軒の家を探さなくてはいけない という難行なのである。

どこにでもあるような石畳や細い路地を行き、地図と看板と照らし合わせながら
やっとのことで目ぼしい家を見つけた。

そっとドアを開けて、Hello と中に入る。
すると、黒髪 ソバージュの奥さんが満面の笑みで迎えてくれた。
その瞬間わたしは、心の中でビンゴ!とガッツポーズをした。

ところが、
「まだ部屋が片付いていないから20分後に来て」と言われ、
歩き回って疲れていたわたしは少しがっかりした。
それが伝わったのか
「スーツケースは置いていっていいよ」となぐさめの言葉。

時間つぶしに隣のレストランに入り、スカンピのリゾットとコーラを注文したとき
海風に気持ちよく吹かれていることに気付いた。

白ワインとオリーブ油と塩でシンプルに味付けされたアドリア海らしい食事を堪能した。

クロアチア2-2

クロアチア2-2

無事に案内されたアパルトマンは、わたし1人には広過ぎる2階建てで、
ベッドルームは2つもある。
鍵は明日の朝ポストに入れておくように言われ、奥さんはいそいそと出掛けてしまった。
部屋は清潔に保たれ、インテリアも可愛らしくすごく嬉しくなった。
これが、ホテルにはない アパルトマンの良いところだ。

日中はなにしろ陽射しが強いので、日が陰った夕方からディオクレティアヌス宮殿へ向かった。
10クーナで宮殿の頂上に上ることができる。

急な階段を登り、徐々に広がる景色にわたしのどきどきワクワクは最高潮に達していた。
ちょうど他に観光客はいなく、しばらくわたしは街並みを独り占めできた。

街並みを愛おしく感じ、どれだけいてもまったく飽きなかった。

船の汽笛が遠くに聞こえ、
4時を知らせる鐘が鳴った。

クロアチア2-3

クロアチア2-3


第三章 ディオクレヌス宮殿

クロアチア3-1

クロアチア3-1

宮殿の周りを見て回っていると、初めて日本人に遭遇した。
聞くところによると同じくひとり旅らしい。
よかったら夕食を一緒にと お誘いいただいたが
異国の地にまで来てこの旅の経緯や自分の仕事や環境をつまみに、タコのサラダやムール貝を食す気にはなれなかったのでお断りしてしまった。
旅の一期一会であったのだけれど。

夜になり部屋に戻ると、広過ぎるアパルトマンはやはりすごく怖かった。
外の物音にいちいちビクッとした。
クロアチア語を話すオバケならまだましである。むしろ出てきてもらって構わなかった。
21時就寝。

午前4時起床。
アパルトマンを出発してしまったらインターネットは使えないため
出掛ける前に、移動に関する調べ物や計画を詰めるためにひたすら情報収集。
7時になり、青空市場に出掛けた。
白いパプリカや、粒が小さい濃い色の葡萄、イチジク、新鮮な野菜や果物を売っている屋台がたくさんあった。
しかし、キロ売りなので買うことができないし、
お店の人にはジロジロと見られ 物色はできなかった。
あわよくばリンゴを味見したかったが・・・

蜂蜜を売っていたお姉さんが一番感じが良かったので話かけてみた。
お姉さんおすすめの 栗の花から取れた蜂蜜と、ドライフルーツやナッツがぎっしり漬けられている蜂蜜を買った。

日本でも当然そうだが
例えば商売において、愛想がいいというのはそれだけで儲けに繋がる場合が多い。

クロアチア3-2

クロアチア3-2

朝食用にシンプルな白いパンとヨーグルトを買って部屋に戻り
テーブルの上に、海苔おかきと クロアチア語で書いた手紙を置き、
言われた通り鍵をポストに入れ、部屋を後にした。

そして
14時のフェリーで今回一番訪れたかった島、
フヴァルに向かう。

クロアチア3-3

クロアチア3-3


第四章 フヴァル島へ

だいぶ日に焼けたと思う。
日を遮るものはないし、むしろみんなカンカン照りのテラスで
エスプレッソを楽しんでいるわけで
日傘なんてさしていようものなら追放されるだろう。

中型のフェリーに乗り込み1時間後、
フヴァル港に到着。

見るからにこじんまりとした島であり、スプリットとは明らかに違う匂いがした。
そう、フヴァルはラベンダーで有名なのだ。
港に着いた瞬間からアロマ効果で心地が良い。

ここでは良いアパルトマンが見つからず、歴史ある素朴な「ホテルパレス」に泊まった。
部屋は真っ白でシンプル。
エアコンはなく天井に扇風機がある。
回るたびにゴーゴーと音がするが、これがまた病みつき。

さて、フヴァル島にはどうしても行きたいレストランがあった。
初めて手にした本に載っていた、LUNAという店だ。
パレスからはさほど遠くないはず。

島を散策に出掛けた。
広場から見える、たくさんの石畳の路地や狭い階段を登って行くと
可愛らしい看板や扉、横切る猫・・・
なんとも、絵になり過ぎる。

そして歩いていると、なんとなく見た事のある路地が。

LUNAだ・・・!!

見つけた瞬間、興奮した。

まさに、本の一ページに入り込んだ気分になった。

クロアチア4-1

クロアチア4-1


第五章 LUNAにて

辺りはまだ明るい。

夕飯にはあまりに早かったので路地をウロウロしていると
カフェで働く青年が声を掛けてきた。

「お茶でも飲んで行かない?」と言われたので店に入ると、そこは素敵な中庭だった。
石の壁に囲まれたその庭には、
この国に来てからたくさん見る、紫色の小花がたくさん咲いていた。
グリーンティーを頼んだら、カモミールティーが出てきた。

風が気持ち良すぎて、お客がわたしひとりだったのをいいことに
まるで自分だけの中庭のような感覚でティータイムを満喫した。

そろそろ店を出ようとお茶代15クーナ払おうとしたら、200クーナ札しかない。
しかもお釣りがないという。
青年は、くずれたら払いに来てと言った。

だいぶ薄暗くなったのでLUNAに向かう。
またしてもお客はわたしだけ。
190センチ以上あると思われる男性店員に3階にあるテラスへ通される。
背が高すぎるからか舌が長いからか、クロアチア語訛りの英語が さらに聞き取り辛い。

彼の娘であろう4歳くらいの女の子が、チョロチョロわたしの周りから離れない。
彼に、注文を聞いてと言われたのか 話し掛けてくれるが、
わたしはクロアチア語が分からない。仕方なく英語で返すも、
彼女は英語が分からない。
困らせてしまったので、キティちゃんのラムネ菓子をあげた。

海の匂いとオリーブ油の匂いが漂ってきたと思ったら
目の前に出された皿の上には、ムール貝やイカやスカンピがひしめき合うシーフードパスタ。

フヴァーラ!(ありがとう)

パスタは平打ち。
これもまたシンプルな味付けで素材の新鮮さが感じられる。

いつの間に他のテーブルでは、家族連れのドイツ人や、スイスからの老夫婦が
月夜に照らされた白ワインをかたむけていた。

クロアチア5-1

クロアチア5-1


第六章 問題発生

翌朝、
港に着く船の汽笛と、波が打ち寄せる音が心地良い曇り空のなか
海岸沿いを散歩した。

レストランの店員が余ったパンくずを海に投げ入れると、
透き通ったエメラルドグリーンの水面にたちまち黒っぽい魚が現れた。

広場にある修道院の奥には、KONZUMというこの国で多くみられるスーパーがあった。
異国のスーパーほどその国の人々の日常を垣間見れるところはない。
わたしはヘーゼルナッツチョコレートと、紫色の小花の種を買った。

そして、昨日のカフェに15クーナを払いに行った。

散策していると
いつの間にかLUNAがある路地にいた。
店の前には昨日の女の子が走り回っている。

風は少し強くなり、雲は相変わらずグレーだった。

今日は一日フヴァル島を楽しんで、明日の朝9時のフェリーでまたスプリットに戻るつもりだったので
午後になり少し昼寝をしてから、明日のフェリーのチケットを買いにヤドロリニヤという売り場に向かった。

売り場のドアの貼り紙にふと目をやると、そこには
嫌な文字が踊る。

[悪天候のため明日のフェリーは欠航]

いくらわたしの拙い英語力でもその非常事態は読み取ることができた。

頭は真っ白になり全ての思考能力が停止し

わたしは同時に、旅の醍醐味を感じた。

クロアチア6-1

クロアチア6-1


第七章 優しいひと

落胆し、もうろうとしたまま「ホテルパレス」に戻る。

もう一泊島に泊まることも考えたが、
明日どうしてもスプリットからドゥブロヴニクに移動しないと
滞在の期限は守れなさそうだった。

ホテルのフロントの女性にこの状況を説明し 助言を求めた。

青白い顔をして慌てふためくわたしのために
かみ砕いた英語でゆっくりゆっくり優しくこう言った。

「どうしても明日スプリットに戻りたいのなら
この島にあるもう一つの港、スターリグラードから出る大型船に乗りなさい。
ただ、朝の5時半出港の便。
ホテルからスターリグラード港まではバスで30分、しかしそんな朝早くからバスは走っていない。
そうなるとタクシーしかないのだけど。」

こちらタクシーはべらぼうに高く、ホテルから港までは300クーナ。
実に、船のチケットの9倍だ。

どうしても島をでないといけなかったが
タクシーにそんな大金を使うわけにいかなかった。

途方に暮れていると
フロントの女性は受話器を取りどこかに電話をしはじめた。
数分後 電話を切り、女性はふたたびゆっくりとこう言った。

「4時半にホテルの前にタクシーが来るから、それに乗ってスターリグラード港まで行きなさい、
料金は100クーナでいい。」

おそらく、事情を言ってタクシー会社に交渉してくれたのだろう。

わたしは、とにかく丁重にお礼を言って部屋に戻った。

その瞬間、初めて大粒の涙が頬をつたった。
喜びでも安心でもない。

わたしを思い、策を練ってくれた彼女の優しさに
いっきに感情があふれ出た。

クロアチア7-1

クロアチア7-1


第八章 スターリグラード港から出航

もう辺りは薄暗くなっていた。

情報を整理し、やっと落ち着きを取り戻した。

昼食を食べそこねて空腹だった。
けれど、遠くまで足を運ぶ気にもなれず
近くのピッツェリアで、マルゲリータとトニックウォーターを頼む。

風はますます強くなり、店内の照明も時々途切れる。
店員は、「LIGHT SHOW!」とわたしにケラケラ笑いかけながら
店のBGMに合わせて陽気に歌を歌う。

マルゲリータと彼らのお陰で気力を取り戻した。

クロアチア8-1

クロアチア8-1

午前3時
目が覚めて支度をする。
日本のトラディショナル ハンカチーフ(FUROSHIKI)と、あられ菓子を袋に詰め
チェックアウトの際、昨日のお礼にとフロントの女性に渡した。
タクシーは時間通りに来て、
5時半、無事にスターリグラード港からスプリットへ向けて出港した。

大型船はラウンジのようになっていて優雅である。

老夫婦が肩を寄せ合い寝ているのを眺めながら
いつの間にわたしも夢のなかへ。

クロアチア8-2

クロアチア8-2


第九章 再びスプリット

二時間ほどの航海でスプリットに到着した。
ただいま。

早朝の風は本当に冷たく、船の中でもブルブル震えながら上着に包まり眠っていたため
体は芯まで冷え切っている。
とりあえず入ったカフェで、この先の計画を詰めながらコーヒーで暖まる。

後半戦のゴングが鳴る。
旅のハイライト、世界遺産ドゥブロヴニクの街へ向け出発する。
またも6時間のバス移動だが、海岸沿いの断崖絶壁を走ると聞いていたので
乗り物酔いが心配であった。
彼らの運転の教科書には、徐行運転という文字は存在しない。
右手にはアドリア海に浮かぶ100を超える島々、
左手には自然の素顔むき出しといった荘厳な岩山が延々と続く。

こちらに来てからわたしはよく、
“地球を見ている” 感覚になる。

クロアチア9-1

クロアチア9-1

途中、トイレ休憩が3回あったが
2回目の休憩のときに、女性がひとり置いてけぼりになりそうになった。
特に点呼もしない上、10分休憩と言ったにも関わらず5分で発車することもあるからだ。

夕方、ドゥブロヴニク長距離バスターミナルに到着した。
日が落ちる前にアパルトマンに辿り着きたい。

固唾を飲んで、市内方面のバス停に向かった。


第十章 ドゥブロブニクでのアパルトマン探し

乗り込んだバスはまず、終点のピレ門まで行った。
そこから更に乗り換えて、アパルトマンのあるラパッド地区まで行かなくてはならない。

乗り換えが必要なことも、終点がどこなのかも知らなかったのだが
バス停で地図とにらめっこしていたわたしに、ひとりの若い女性が声を掛けてくれて
チケットの買い方と、わたしが行こうとしている方面のバスが6番であることを教えてくれた。
バスに乗るとき必ず親切なひとに助けてもらう。

わたしはラッキーガールだ。

けれど
その女性とは途中から行き先が違ったため、お礼を言って別れた。
乗り換えてからは自力で降りる場所を探さなくてはならなかった。
地図には、バス停の場所も名前も記されていないので
地図と窓の外の景色を照らし合わせながら、
目印にしていた郵便局を過ぎたところで「今だ!」と飛び降りた。

そこからは、重たいスーツケースをズルズルと引きながらアパルトマンのある通りを探す。

しばらくさまよい、やっとそれらしきアパルトマンの看板を見つけた。
インターフォンを押してみると、中から中年の女性が顔を出した。
なんだか怒っている。
「今、食事中だからあとにして。」
予約していたはずなのにずいぶんぞんざいに扱われた。
スプリットで泊まったアパルトマンのオーナーとはえらい違いだ。
しょんぼりしながら、
すぐ近くにあった高級ホテルに入った、旅の本を広げながら。

ロビーはとても近代的で、ラウンジで優雅にお茶を飲んでいる若者たちが
妙に羨ましくなり、
このときばかりは、「ここに泊まりたかった」と小さく弱音を吐いた。

「コンニチハ~。」

ふと隣を見ると
わたしに向かって、ひとりの外国人男性が話しかけてきた。

クロアチア10-1

クロアチア10-1


第十一章 画家の彼

「アナタのホンに ワタシノッテル」

え?わたしが広げていた旅の本にあなたが載っている?!

ホテルのラウンジで個展をしていた彼は、クロアチア出身の有名な画家らしく
頻繁に来日もしているという。
本には確かに、写真入りで彼の記事が乗っていた。
こんな簡単に遭遇してしまうものなのかと、驚いた。

それにしても、彼はとても親切で人懐っこかった。
わたしのアパルトマン探しが難航している旨を伝えると、まずフロントに聞いてくれた。
結局それでも分からず、今度はホテルの前に止まっていたタクシードライバーに聞いてくれた。

すると、なんと私たちが探していた通りの名前は
今は使われていない!?
ホテルの脇の坂を下ったところがアパルトマンの本当の在りからしい。

よかった・・・さっきのところは間違っていたんだ!

クロアチア11-1

クロアチア11-1

坂を下るとすぐ、本当のアパルトマンを見つけた。
庭では犬が走り回る、真っ白な壁の可愛らしい家だった。
テラスには美味しそうな葡萄がたくさんなり、つるが生い茂っている。
オーナー夫婦と息子のブルーノくんは わたしがひとり旅だと知ると
「よく来たね」と、温かい笑顔で歓迎してくれた。
キッチンもベッドルームも鮮やかなオレンジ色で統一されていて、気分が明るくなる。

部屋の鍵を受け取ると、
「夕飯の場所がまだ決まっていないのだったら、すぐ近くの丘の上にあるレストランは値段も高くないし、肉や魚やパスタ ピザ なんでもあるよ」と、勧めてくれた。

この日はもう歩き回りたくかったので、そこに決めた。

そのレストランはmagellanという名前だった。

真新しいモダンな外観で、ウェイトレスもテキパキと店内を行き来している。
チキンのグリルと野菜の付け合わせ
それとレモン果汁の入ったスプライトを頼んだ。
店は家族連れで混み合っていたのでわたしは中央のテーブルに案内された。

料理が来るまでの間、
フヴァル島とはまた雰囲気が違う
ドゥブロヴニクの、どこか都会的な感じのする夜景を眺めていた。

「ENJOY!」
ウェイターはそう言って美味しそうなグリルをテーブルに置いた。
肉は柔らかく、野菜はジャガイモ、小松菜、グリンピース、にんじん
彩がよく盛り付けが美しかった。

相も変わらずひとりきりの夕食だったが
楽しいおしゃべりをBGMに、とても温かいときを過ごした。

食事を終え、帰り道 ガラス張りのホテルのラウンジを見ると
画家の彼は お客さんに、絵の解説をしているようだった。

翌朝はいよいよ、ドゥブロヴニクの旧市街と城壁をめぐる予定だったので
この日も早めに就寝した。


第十二章 城壁一周

朝6時。
海風が少し強く、ゴーゴーと音を立てる。

あの「魔女の宅急便」の街に出会えるのかと思うと楽しみで仕方なく、
7時半には部屋を出た。

本当は バスの乗り方が不安だったのだけど、
散歩がしたいと かこつけて、20分ほど歩いて向かった。
緩やかな坂の先には小さくて細い体の猫が二匹。
黒猫のジジがいる。

ピレ門から旧市街に入ると、まっすぐにのびるプラツァ通り。
まだ観光客はいない。
辺りはしっとりと薄暗く、オノフリオの噴水ではハトが水浴びをしていた。

クロアチア12-1

クロアチア12-1

通りを抜けたところには聖ヴラホ教会がある。
どっしりと構えるその重厚な雰囲気に、
吸い込まれるように中に入った。
カトリック信者が朝の礼拝のために集まっている。

クロアチア12-2

クロアチア12-2

わたしも端っこにちょこっと座り
ゆっくりと息を吸い込み、ゆらゆらと揺れるロウソクの火に目をやっていた。
しばらくして入り口の扉がギギギーと閉まった。

神父と助手の小さな男の子が祈りをささげ、日曜礼拝が始まった。
時間はちょうど八時。
そう、今日は日曜日だったと気付く。

言葉が分からず、起立も着席もみんながしたらそれを真似した。
祈りをささげ 讃美歌を歌い、30分ほどたったのだろうか。
献金箱が回って来て わたしも小銭を取り出し
たまたま財布に入っていた五円玉も一緒に入れた。
最後に神父がなにか言うと、みんな 自分の周りの人と握手を交わした。
わたしにも優しく手を差し出してくれた。

思わぬ経験をし、穏やかな気持ちのまま教会をあとにした。

城壁を歩くため、入り口近くの売り場でチケットを買った。
観光客がごった返す前に、のんびりと街や要塞を眺めたかった。
城壁は一周一時間ほどで歩ける距離だが
どのポイントも写真に収めたい要求に駆られるため、実際はもう少し時間がかかった。

写真の技術はいらない。
きっと誰が撮っても、絵ハガキのような街や海を映し出せる。

クロアチア12-3

クロアチア12-3

褐色の瓦屋根、
威厳を感じさせるグレーの要塞、
そして碧く碧く壮大なアドリア海。

肯定も否定も存在しない、

地球という 天国にいる気がした。


第十三章 Cmi rizot

クロアチア13-1

クロアチア13-1

旅の本に載っていた「カメニツェ」というレストランでイカスミのリゾットを注文した。
看板娘のターニャさんは
白いワイシャツに白いデニム、ベリーショートの髪型がとても似合う。

米はアルデンテで
レモンを絞ると爽やかな香りがイカスミととてもよく合って、ペロッと完食した。

広場にある市場の上空をハトが優雅に飛び交う。

クロアチア13-2

クロアチア13-2

日も陰り、人も多くなってきたので部屋に戻ることにした。また徒歩で。

疲れが出たのか、部屋に着くなり眠ってしまった。

旅は明日まで。
二日目から今まで6日間かけてずっと国内を南下してきたので
最終日にドゥブロヴニク空港から、帰りの出発地 ザグレブ国際空港まで
一気に飛んでしまう計画だ。

バスだと11時間、飛行機だとたったの1時間。


第十四章 最終日

クロアチア14-1

クロアチア14-1

三度の食事の中で、朝食が一番好き。

アパルトマンに泊まったり、ホテルを出るのが明け方だったり
クロアチアに来てから、あまりちゃんとした朝食を取っていなかった。

今日は最終日だし、
少しだけ贅沢をしてしまおうか。

荷造りをして、下の階に住むオーナー夫妻にお礼の挨拶をしに行った。
ブルーノくんは学校へ行くため、ちょうど朝食の最中だった。
「もう行ってしまうの?」と、お父さん。
わたしは「素敵な部屋を貸してくれてありがとう」
と、海苔おかきと扇子をあげた。
「嬉しいわ。でもどうしよう、あなたにあげるものがなにもない」
お母さんは申し訳なさそうにそう言い、別れを惜しみ 目に涙を浮かべてくれた。

ありがとうお母さん、元気でね。

さよならを言い、わたしは旧市街近くのインペリアルホテルへ向かった。

「Only Breakfast OK?」

バイキング形式の朝食をゆっくりと食べながら、旅を振り返った。

わからないことが多すぎて、何度もくじけそうになった。
たくさんの人に、助けの手を差し伸べてもらった。
そして、健康に無事に
色々なことを感じながら旅できたことに感謝した。

あの海の碧さを思い出せば
どんなこともあるがままに受け入れて生きていける。

朝食を食べ終えてドゥブロヴニク空港に向かい、ザグレブ国際空港へ。
そして、またフランスCDG空港を経由して
翌朝6時羽田空港国際線ターミナルに到着した。

「おはよう!」

母に電話をした。


Message

どんなときも、淡々と。
 自分を客観的に見て、息をしなければいけない。
ゆるがないこと
 優しくあること
 ひけらかさないこと
かっこ悪くても、
 いつも喜んでいよう。

ヴァイオリニスト 辻本雲母

※このクロアチア旅行記は、著者・辻本雲母さん(高嶋ちさ子12人のヴァイオリニストメンバー)の承諾を得て掲載しています。



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